サンデーサイレンスの孫のダービー

今年のダービー出走馬はすべてサンデーサイレンス(SS)の孫。
しかも父父SSが16頭。
そんなわけでセントサイモンの悲劇とあわせてSSの悲劇を語るのが今の競馬通の流行。

社台が父系としてのSSをいかに残そうとしているか。あるいは父系として伸ばすことに必ずしも興味があるわけではなく、むしろSSの肌をいかに活用しようとしているのか。それは社台で無ければわからないが、しかし経済論で言えば、社台が持つSS系父の種付け料で稼ぎつつ、社台が持つSS肌の仔で稼ぐ(セールあるいは競馬で)、のが最も効率がよい。この論理で行けば、社台は父系としてのSSを残すことは最優先ではないと考えるのが自然。
しかしながら、現実は社台はSS系種牡馬で一定(以上)の成功を収めている。これには2つの考え方がある。ひとつは、SS系父のブランドイメージを上げるための戦略がうまくいっているという考え方であり、もうひとつは、SS系父が他の父よりも優秀であるために(仕方なく)使っているという考え方である。
前者であれば、社台はイメージをつなげるためにSS系にあう肌馬を一定量(過剰にならない程度に)用意する努力をする。これは一定量であることが大事で、あまりに多いとコストがかかり、また持っているSS肌の価値を下げてしまい、結果的に仔で稼ぐセールスが成り立たなくなる。一方で非SS種牡馬導入のコストは無視できない。非社台の種牡馬を利用し成功してしまうと、社台ブランドの低下につながるため、非SS種牡馬であろうとも、社台ブランドでなければならない。
後者であれば社台が持つSS肌で稼ぐことは基本的に諦めて放出し、SSでない肌を活用しようとする。これは前者に比べ非SS肌導入のコストがかかるが、種牡馬導入のコストは低くなる。
現在の社台はこの二つを基本的に同時にやろうとしている印象を受ける。すなわち、SSの肌はある程度放出しつつしかしながら一部を残し非SS種牡馬を導入する一方、非SSの肌の導入も進めている。
では果たしてそれは成功しているといえるのであろうか。
今回のダービー出走馬を見ると、社台系11頭(+2頭SS肌+非SS父)、他7頭が出走することになっている。このうち、社台は内国産の母が5頭、持ち込み1頭(ただし持ち込んだのは早田牧場)、○外1頭、外国産繁殖馬4頭。一方、他は内国産3頭、外国産2頭。繁殖として考えるので、持ち込みは持ってきた時点で性別はわからないので内国産扱い、○外は外国産扱いとすると、社台は6:5、他は3:2となる。
社台にいる繁殖牝馬の比率を知らないのでこの数値をどう取るかは決めかねるところがある。しかし、ある一定の割合で内国産の繁殖が父系SSとの間に強い馬を作ることに成功しているのは事実だ。すなわち、内国産繁殖牝馬の質が劣っているとは言い切れず、非SS肌の導入は必ずしも成功しているとは言い切れない状況といえる。もちろん、10年後を見据えた話ではない。10年後にSSを持たない繁殖が優勢となっているか、SSを血統表の3〜4の位置に持つ繁殖が優勢になっているかは現段階ではどちらもありうる。
一方でSS系肌はBMSとして数はぶっちぎりの1位。AEIも1.3台と以外にも?決して悪い数値ではない。これを支えているのは、リーディング上位から、キンカメ、クロフネ、ボリクリ、バクシンオー、ジャンポケ、ギムレットであろうが、バクシンオーは最後にグランプリボスを出したものの死亡したし、個人的にはジャンポケ基地なので捨てきる気は無いが今年のジャンポケは大不調、ギムレットも優秀とはいいがたく、クロフネとボリクリは基本ダートサイヤーであり、クラシックで多数の活躍馬を出す可能性は低い。海外から導入した種牡馬は今のところ必ずしも成功しているとはいえないし、ここ数年で社台入りした非SS(母父を含め)種牡馬も必ずしも大物間はない。ゆえにチチカスとハービンジャーにはそれなりに期待が大きいが、少なくともクラシックを狙うSS肌を支えているのはキンカメのみ(個人的にはジャンポケといいたいが一般的にはいえない)といっても過言ではない。そのキンカメが今年のダービーにわずか1頭しか出せなかったことは社台におけるSS肌が成功しているとは言い切れない。
現在の社台を支えているのは、SS系種牡馬の活躍と、キンカメの成功(ただしまだ眉唾)、一部の導入した非SS肌の成功と、一部の内国産非SS肌の成功に由来している。
うべなるかな、SS肌の不振は結果的にSS系種牡馬の繁栄を支える。セントサイモンの孫の世代におけるセントサイモン肌の成績がどのようなものであったのか?SSの悲劇を語るにはそれも重要な要素であろう。
また、10年後には、SSのクロスの成否がSS系種牡馬の行く末を左右するであろう。ただし、ノーザンダンサーがその初期にクロスは駄目だと言われていたことがあるように、10年後よりは20年後のほうがよりSSクロスの成否の重要性が増すであろう。
もっとも、成功するかどうかは、社台がクロスを取るか、取らないかにも相当依存するであろうが。

話はずれるが、個人的には、日本の馬が弱いなんて考えてなくて、日本の馬は日本の競馬という枠においては海外の馬よりも強いと思っている。それは、1200と3200では強い馬が違うのと同じように、東京で強い馬とロンシャンで強い馬が違うということであり、その違う個性はサラブレッドという種の発展には大事なのではないかと思う。だから将来、日本の馬たちが世界の血統に入り込んでいく可能性は充分にあるし、そうなって欲しいと思っている。だからこそ、SS系種牡馬であれ、SS系肌であれ、どちらも大事に(骨董品の様にではなく、より強くなっていくように)発展していって欲しい。
一血統ファンとしての願いであり、商業的なこととは別の、ロマンに過ぎないが。